地下鉄の駅で待っていた。もちろん電車がくる。
この世とはもうさよならだ。次の世界に行かなければいけない。
静かに、微かな音をたてながら電車がくる。二両しかない電車だが、乗るのは私だけ。
ドアをくぐりぬけ中に入る瞬間、言いようのない悲しみが胸を刺す。これまで幾度体験しただろう。それでも未だ、慣れない。
私が席に着くのを待って、電車はゆっくりと動きだす。窓の外は真っ暗。何も見えない。次に着くまではこの電車は何も教えてはくれない。私は懐から柔らかい布を出して、腰にさしていた刀を拭く。
刀を鞘に収める頃、電車が速度を落とした。今回は到着が早いようだ。かと言って短い距離を走ったわけではないだろう。そもそも、距離という単位ではかれるものなのかも定かではない。
とても、眩しい景色が開けた。思わず目を細める。目が慣れてきた頃には電車は止まって、私が降りるのを待っていた。
新しい世界に、一歩踏み出す。
…暑い。目の前に広がるのは一面砂だらけの大地だ。砂漠か。
後ろを振り返ると、もう電車はなかった。電車も、その線路も、砂の下に消えていた。そう、いつものように。
これからどうするか。よくよく見れば、遠くの方に街らしき建造物が見える。しかし相当な距離だ。さすがの私も砂漠を歩くのは初めてだ。とりあえず、街に向かって歩き出してみた。
「!」
小一時間も歩いた頃、不意に何かの気配を感じた。とっさに柄に手をかける。気配は街に向かって右の方。
「よう。こんなところで何してるんだ?」
そう聞こえた瞬間、右側から砂が舞い上がった。砂埃が止んでみれば、そこには男が立っていた。
「見ない格好だな。観光客か?」
馴れ馴れしく話かけてくる。敵意はなさそうだ。私は構えをとく。
「まぁ、そんなところ。あの街まで行きたいのだけど。」
「歩いてか?それは大変だぜ。俺の砂イルカ貸してやるよ。」
そう言って男は足元の可愛らしい大きな動物を指した。男がひゅーいと口笛を吹くと、またも地中からもう一頭現れた。
「街まで着いたらお前降ろして勝手に俺のところまで戻ってくるからよ。」
初対面なのにやけに親切だ。もしかしたら街ではなく違うところに連れて行かれるのかもしれない。
「ありがとう。これ、お礼。」
懐から黄色い玉を出して渡す。この世界で価値があるのかは知らないが。
「お、サンキュ。じゃ、気をつけてな。」
どこまでも軽い男だった。私は砂イルカにまたがる。
この世界での旅の始まりだ。

 

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